マーティン・ヘイズ&デニス・カヒル札幌公演に寄せて
(2009年札幌公演)


星 直樹 Naoki Hoshi (RINKAHARD TO FIND

  マーティン・ヘイズとデニス・カヒルが札幌にやってくる。ここ 数年、日本にもアイルランドの大物ミュージシャンが頻繁にやってくるようになったが、あくまでも東京など主に首都圏や大阪までで、なかなか北海道までは来る機会がなかった。それが今回、マーティン・ヘイズとデニス・カヒルという現在のアイリッシュミュージッ ク・シーンでおそらく最も素晴らしいデュオのコンサートが札 幌で実現するというのは素晴らしいことだ。

 僕が彼らの音楽を初めて聴いた時の印象はかなり強烈だった。それまで聞いていたアイリッシュ・ミュージックとはかなり異なっていて同じアイルランド 音楽だとは思えなかった。演奏している曲はまさに伝統的なアイ ルランドのダンス・チューンなのだけど他のバンドの演奏とは全く印象が違う。

 フィドルはゆっくりと静かにメロディーを演奏し始め、ギターが ポツポツと音数少なくコードを置いてゆく。一聴するととても静 かでおとなしい演奏なのだが、曲が進んでいくにつれてどんどん音楽に引き込まれていく。マーティン・ヘイズのフィドルは決してテンポを上げることなく、しかし感情の赴くままに バリエーション豊かにメロディーを変化させ、うねるような抑揚 とリズムを伴って聴く者を魅了する。ギターも決して大音量でか き鳴らしたり派手なソロを弾くわけではなく一聴するととても地味なのだが、リズムと抑揚は完全にフィドルと一体となり、計算しつくされたような効果的なコードで フィドルを支えている。僕は自分がギター弾きということもある ので、デニス・カヒルのギター・スタイルは個人的にもとても興味深い。彼のコードの選び方やリズムの刻み方は他のアイリッシュのギタリストとはかなり異なって いて、音を弾くというよりはまるで「間」を弾いているような感 じで、ある意味彼のギターが彼らの音楽を特別なものにしていると 言っても過言ではないと思う。

 マーティン・ヘイズはアイルランドのクレア地方という伝統音楽 の盛んな地で生まれ、彼のお父さんのバンドで小さいころから フィドルを弾いて育ったというからバリバリの伝統音楽家でもあるのだが、マーティン&デニスの音楽は「アイルランド伝統音楽」という枠には収まりきらない独創的な、またとても個人的な彼ら 独自の音楽だと思う。フィドルとギターだけのシンプルな編成な がら、彼らのライブ盤やYoutubeなどの映像を見ると決し て静かで美しいだけの演奏ではなくて多くの観客を熱狂させるほどのパワーも持っているのがわかる。ぜひ多くの人に彼らの音楽を直に体験してほしいと思うし、僕も彼らの演奏を生で見れるの をとても楽しみにしている。



田澤 即 Chikashi Tazawa(らぶら ぶ BAND


 マーティン・ヘイズの公演によせてクレアの音楽について…と いうこと で声を掛けていただいてありがとうございます。うれしいです。普段感じていることを 少し書いてみますね。

 
じょせさん* がコンサーティナを演奏するので、必然的に、というか自然とクレアのCD、特にコン サーティナ関係が多くなりますね。好きなミュージシャンに クレアのひとが多いのもあって操さんにとってのドニゴールの音楽のように、僕らにとってクレアの音楽は特別なものかもしれないです。クレアの音楽は割との んびりした、というか、おおらかなかんじのものが多いですね。フィドルもスライドを多用したり、トリプレットはあまり使わないみたいですね。コンサーティ ナが演奏しやすいCやAmといったキーが多いのも特徴かもしれません。

 僕のブズーキはオーイン・オニールのスタイルをお手本にしています。オーイン・オニールの伴奏スタイルには学ぶところが多いです。大御所アンディ・アー ヴァインもいますが、アンディはブズーキ・プレイヤーというよりもボーカルも含めた「アーティスト」的な存在ですね。クレアのことを歌った歌もありました ね。城田純二もクレアの音楽に影響を受けていて、アイリッシュを始めたころは"Flow"「水が流れるように」弾きなさいとよく言われたとなにかで読んだ ことがあります。城田純二の初期の頃はマーティン・ヘイズに影響されたのがよくわかりますよね。きっとマーティン・ヘイズがすごく好きだったんだろうなあ と思います。


 あーなんかとりとめもないことでごめんなさい。これじゃただのメールですね。では
また

※じょせさん;田澤さんの奥さん、広美さん(らぶらぶ BAND)



Brian Connolly ブライアン・コノリー 【 日本語訳:コノリー麻紀

Being a foreigner living in Hokkaido, I sometimes get asked, "Where are you from?". When I answer, "I'm from Ireland" the reaction is varied. Some people haven't heard of it before or confuse it with Iceland or Holland but recently more and more people know Ireland and know about it. They know about Guinness, U2, Enya, Riverdance, Celtic Woman(!?) etc.... A common theme is Music; but it is hard to explain about the roots and tradition of Irish Music and the lovely tunes.

I was doubly delighted then when I heard several months ago that Martin Hayes & Dennis Cahill would play a concert in Sapporo. Firstly, that I could hear them play live, and secondly, that I can't think of a better duo of Irish Musicians to showcase the beautiful melodies and nuances of Irish Music. The tunes are the heart of Irish Traditional Music. They have been handed down from generation to generation and this passing on of the tunes is what keeps the tradition alive. Martin Hayes has been born into this tradition and it's clear from listening to the playing of Martin Hayes and Dennis Cahill of how much care they treat each tune and each note in each tune.

Last Year Martin Hayes won the top prize in Irish Music "Gradam Ceoil Musician of the Year 2008" and in an interview before receiving the award he talked about how he has been interested if audiences without an Irish Traditional Music background would appreciate the music. His conclusion from traveling the world is that "The Music is Good". I think that all lovers of music, no matter what the genre, will enjoy their playing.

北海道で暮らす外国人として時々尋ねられる事がある。「どちらか ら?」「アイルランドです。」と答えるとそのリアクションは様々だ。その名を聞いた事がない人、アイスランドやオランダと混同する人など。しかし近年、よ り多くの人々がアイルランドを知りつつあるように思う。多くの人がギネスやU2,エンヤやリバーダンス、ケルティック・ウーマン(!?)などを知ってい る。共通のテーマはやはり音楽だ。しかし、アイルランド音楽とその美しい調べのルーツと伝統について説明するのは簡単な事ではない。

私は数ヶ月前、マーティン・ヘイズとデニス・カヒルが札幌でコン サートをすると聞き、とても喜んだ。第一に彼らの演奏をライブで聴ける事、そして彼ら以上にアイルランド音楽の美しいメロディとニュアンスを表現出来るア イリッシュ・ミュージシャンは他に思い付かない。その楽曲はアイルランドの伝統音楽の真髄だ。時代から時代へと伝えられてきたこのメロディを後世に受け継 いでいく事こそが伝統を守っている。マーティン・ヘイズはこのような伝統の中で生まれ、マーティンとデニスの演奏を聴けば彼らがどれほど1つ1つの曲やそ の音の1つまでもを大切に奏でているかという事は言うまでもない。

昨年、マーティン・ヘイズは2008年のグラダム・キョール・ ミュージシャン・オブ・ザ・イヤーでアイルランド音楽では最高の賞に輝いた。その時のインタヴューで彼は、アイルランドの伝統音楽について何の心得もない 人にどのように評価してもらえるのかが気になっていた、と話していた。世界中を旅してきた彼の結論はこうだ。「この音楽は素晴らしい!」 彼らの演奏は、 ジャンルに関係なく音楽を愛するすべての人に受け入れてもらえると私は確信している。



マーティン&デニス札幌公演チラシについて
デザイン:田畑泰明


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小松崎 操
 Misao KomastuzakiRINKAHARD TO FIND
   ※ blog 愛蘭土を聴く 6 月4日の記事を転載しました。

 マーティン・ヘイズ&デニス・カヒル札幌公演の正式なチラシの デザイ ンが出来上がりました。これから印刷に出して、順調にいけば今月半ばに刷り上がります。

 デザインは、RINKAの3枚目と4枚目のアルバムのジャケッ トを作ってくださった田畑泰明さんにお願いしました。田畑さんには、ライブの写真もたくさ ん撮っていただいて、ほんとにお世話になっています。ジャケットを作る時も、写真などの素材作りから全てやっていただいています。それなのに、いつも注文 が多くて無理難題だらけで心苦しく思っていました。
 今回は、音やCDジャケットなど資料をどっさり渡して、田畑さ んのイメージで作ってくださいとお願いしました。アイルランド音楽やマーティン&デニスの ことに詳しいこちらで注文を出すより、マニアじゃない田畑さんが、二人の音や姿からイメージして作ってくれた方が、多くの人にアピールできるのではない か・・・これは星くんの提案だったのですが。

 で、先日、田畑さんから表面3パターンのデザイン案のデータが 送られてきました。その中のひとつ・・・そこには、メインで使うと想定していたものとは違 う素材が使われていました。絶対これがいい!

 裏面は、協賛してくださるアイリッシュパブ「ブライアンブ ルー」と「オニールズ」、実行委員会の事務局になってくれた「ジャック・イン・ザ・ボック ス」、11月3日にコンカリーニョが主催する「ラウー札幌公演」(マーティン&デニス札幌公演との共通割引チケットあり!)の情報と盛り沢山で、データ集 めに、たくさんの人の手をお借りしました。

 そして、準備不足やデータの変更で、やっぱり田畑さんの手をさ んざん煩わせた末、ようやく完成です!


田畑 泰明
 Yasuaki Tabata(Liviang , The Rascalhands Studio)

        
※ blog りびあん音 楽堂 6月17日の記事を転載させていただきました。

 肌寒い陽気と体調不良、そのうえ財布まで無くし、ここ数日は、 めっきり落ち込んでいましたが、それでも、昨日は久しぶりにうれしい事がありました。関 わっていた、マーティン・へイズ&デニス・カヒル札幌公演のフライヤーが、やっと完成したのです。

 4月下旬の事ですから、それは、もう一ヶ月以上前のことです。 「現在、アイルランド伝統音楽の世界で、最も高い評価を得ているアーティストの札幌公演を 主催する事になったので、その告知用のポスターとフライヤーをデザインしてほしい」とRINKAの小松崎操さんから依頼を請けていました。その時渡された 資料には、「マーティン・へイズ&デニス・カヒル」という、その時は、聞き覚えの無かった名前の上に「アイルランド音楽の最高峰」というキャッチ・フレー ズが踊っていました。「この二人の音楽は、何処がどう凄いのですか」と、アイルランド音楽の、ほんの断片しか知らない私には、疑問だらけ、つぎつぎ質問を ぶつけていました。操さんは、一つ一つ丁寧に質問に答えてくれた後で「音を聴いてみて、感じた印象をそのままデザインにしてください。あとは、おまかせし ます。」と言ってくれたのでした。

 それから、どっさり渡された資料に目を通し、数日間は、何処へ 行くにもCDを持ち歩き、いろいろな場所で二人の音楽を体感していました。「魅力的なペ ア。ここまで質が高くて、ここまで印象を残す音楽など、そうあるものではない。」まさに、それが私の感じたことでした。その事を知ってしまった以上、この 公演を聴き逃すわけにはいきません。そして、より多くの人と共感してみたいと想うのでした。

 そして、デザイン。
 幾つかのモチーフから、操さんが選んだのは、 

 芸術的であるのに、ただそう表現したくはない、正体の解らない 美しさ。
 暗闇の中に差しこんだ光に映し出された印象的なトーン。

 ヘイズとカヒルの音楽から受けた印象を表現したものでした。
 
 この二人の魅力的な音楽を、アイリッシュ・ファンのみならず、 全ての音楽ファンに聴いて頂きたいと、心より願っています。

 .....もしかすると、美しさの正体とは、アイリッシュ音楽 に込められた民族の伝統の技なのかもしれない。と、今ふと感じています。...とする と....