リズムについて

#リール (Reel)

 アイルランドのダンス・チューンの中で、最も多いのが4分の4拍子の、リールです。リールのレパートリーの多くは、スコットランドから伝わったものだと言われています。特にドニゴールのリールは、スコットランドの古いスタイルとの関わりが深いと考えられています。
 フィドルの演奏スタイルで言えば、基本的に1ボーイング1音の、スコットランドやシェトランド諸島、カナダのケープ・ブレトン島の弾き方に近く、弓のアタックが強くてスピード感のある演奏をします。実際、アイルランドの他の地域よりも演奏のテンポが速くなりがちな気がします。装飾音では、3連符(trebring)を多用します。

#ホーンパイプ(Hornpipe)

 リールと同様に4分の4拍子ですが、1拍目と3拍目のアクセントが強くなります。したがって、<タッカ、タッカ>に近いリズムになりますが、アイルランドのダンス・チューンの楽譜は、一般的には符点を付けずに、リールと同じような表記をしています。   

#ハイランド、ハイランド・フリング、ストラススペイ(Highland , Highland Fling , Strathspay)

 いずれも、スコットランドに起源を持つ曲です。スコットランドの音楽には、スコッチ・スナップと呼ばれる独特なアクセントが多用されます。ストラススペイは、スコッチ・スナップと、その逆のアクセントが入り交じって演奏されるスコットランドのフィドル・チューンです。ハイランド・フリングとは、ストラススペイの曲で踊られるダンスのことだそうです。
 スコットランドからドニゴールに渡ってきたストラススペイの多くは、次第にスコッチ・スナップのリズムを失っていき、ハイランドと呼ばれるようになって定着したと思われます。一方で、ストラススペイ並みにスコッチ・スナップを使いながらも、ハイランドと呼ばれている曲もあり、この辺の分類の仕方はよくわかりません。楽譜では、スコッチ・スナップがよく使われている曲には、目安として符点を付けてみました。

#ジャーマン、バーンダンス (German , Barndance)

 ジャーマンは、大陸からスコットランド経由で伝わってきたダンス・チューンだと考えられている、ドニゴール独特のレパートリーです。バーンダンスは、ドニゴール以外にスライゴー地方などでも演奏されています。ただ、ジャーマンとバーンダンスの違いは私にはよくわかりません。どちらも、ちょっと優雅な雰囲気が漂う、親しみやすい曲が多いです。

#マーチ(March)

 行進曲です。スコットランドや、シェトランド諸島との関わりが深いようです。

#マズルカ (Mazurka)

 マズルカは、ポーランド起源といわれる3拍子系のリズムの曲です。何故かアイルランドの中では、ドニゴール地方でのみ演奏されています。本場のマズルカと区別して、アイリッシュ・マズルカとよばれることもあります。

#ワルツ (Waltz)

 アイルランドのダンス・チューンとしては、あまり演奏されることがないワルツですが、ドニゴールでは、他の地域に比べると、若干多く演奏されているような気がします。

#ジグ (Jig)

 ジグは、アイルランドではリールに次いで、よく演奏されています。ドニゴールでは、8分の6拍子のダブル・ジグ (double jig) が最も多く、次いで8分の9拍子のスリップ・ジグ (slip jig) も、よく演奏されます。ジグの曲を楽譜に書くと、8分音符3個が1ユニットとなります。ユニットの最初の音にアクセントが付きます。ドニゴール・スタイルのフィドルで演奏する場合、基本的に、1つの音に対して1ボーイングで歯切れ良く弾き、その中に、スラーも適宜織り混ぜていきます。 なお、 The Lancers と The Marine は、どちらもジグのリズムの曲ですが、独自のダンスのスタイルを持っているようです。