ドニゴールのフィドル音楽について

[はじめに]
アイルランドの伝統音楽は、一般的に4つのスタイルに分けられます。北からドニゴール(Donegal)、スライゴー(Sligo)、クレア (Clare) 、ケリー州とコーク州の州境のシュリーヴ・ルクラ(Sliabh Luachra)の各スタイルです。中でもドニゴール地方の伝統音楽は、近年まであまり知られることなく、独自のスタイルで演奏されてきました。
 ドニゴール地方は、アイルランドの北西部に位置します。アイルランド共和国では最北端の州です。古くからスコットランドとの交流が盛んで、いろいろな面で影響を受けてきました。伝統音楽も、アイルランドの他の地域にはないレパートリーを数多く持ち、特にフィドルの演奏スタイルは独特です。そのドニゴールの伝統音楽が注目を集めたのは、1980年代中頃のアルタン (Altan )の登場によってでした。
 1998年5月19日、アルタン2度目の来日の際に行われた札幌公演の余韻は、何時までも私の心に残っていました。そして、だんだんアルタンの音楽の奥にある、より伝統的な音に興味をもつようになったのです。
 アルタンの札幌公演以来、ドニゴールの曲を覚えたくて、メモ書きしていた楽譜がたくさんたまってきました。集めても集めても、きりが無いダンス・チューンの数々の中の、ほんの80曲ばかりですが、ここにまとめてみました。楽譜を書くのは、あまり得意ではないので、不備なところもあるかもしれません。気がついたことがありましたら、ご指摘ください。

【楽譜の表記について】
楽譜を書きながら、微妙な音程のとり方、いろいろな装飾音、メロディーの小さな変化など、五線譜の中に収まらない音使いに悩まされました。伝統音楽は、五線譜の中に閉じ込められない音でいっぱいです。結局、楽譜は、あくまでも曲の大筋を覚え書きするもの、と割り切って、なるべくシンプルな楽譜にするよう心がけました。参考CDのリストも載せましたので、実際にドニゴールのフィドラーたちの音楽を聴いて、音使いの妙を味わっていただけたらと思います。